将棋とは頓死のゲーム

高段の将棋でも意外と頓死は多いです。
ここで言う頓死とは次のように定義します。

・即詰みがあるのにそれを逃して負ける
・即詰みに気づかず、受け間違えて即詰みに討ち取られる

つい先日の2011JT将棋日本シリーズ決勝 羽生JT杯vs渡辺竜王*1でも渡辺竜王が▲7一銀のところで▲7五桂以下後手玉に即詰みを逃しています。(▲7五桂打△同歩▲7四銀打△同玉▲7五銀△8三玉▲7四銀打△9三玉▲8三金打△同飛▲同銀成△同玉▲6一馬△7二銀打▲8四飛打△9三玉▲8三金打△同銀▲同馬まで)

トッププロでも即詰みを見逃すことは結構あります。これを頓死と言ってしまうのは少し酷かも知れませんが、ここでは頓死という扱いをします。

さて、このように頓死を定義した場合、その頓死率はトッププロでもアマチュアでもほとんど変わらないのではないかと私は思うのです。

そもそも頓死が起きる原因とは、簡単に言いますと、N手〜N+1手しか読んでいない人同士が対戦していると、ときどきN+1手で詰むようみ詰み筋が現れて、片方の人はそれに気づいたり、あるいは両方の人が気づかなかったりするということです。

神様ではないので、N手しか読めないというのは仕方ありません。人間やコンピューターの宿命的なものです。

将棋には、有利なほうはミスしなければ優勢にでき、優勢のほうには先に詰み筋が現れるという原理のようなものがあります。「勝ち将棋、鬼の如し」などとよく表現されますが、優勢のほうはどうやっても勝つように出来ており、「勝つように出来ていないならそもそもその局面は優勢ではない」というまるで言葉遊びのようですが、まあそういうことです。

つまり、優勢の側に先にN+1手で詰む詰み筋(or 必死をかける筋)が現れるわけですが、N手しか読めない人間にはそこまで思考が到達しないんですよね。アマチュアでもプロでもこのNの値が違うだけでだいたい事情は同じなので、(同じ棋力同士の)アマvsアマと(同じ棋力同士の)プロvsプロの対局では頓死率はそんなに変わらないのではないかというのが私の持論です。

それはともかく、結局、相手より読みが浅いと頓死することは多々あるので、優勢であっても頓死はよくあります。

コンピューター将棋の場合、詰みは正確ですが、その詰みに探索エネルギーの何%ぐらいを割り当てるかという課題があります。通常探索の量を減らすと(互角の相手の場合)そもそも優勢になりませんし、優勢にならなければ詰みも何も関係ないという話もあります。

かと言って、全く詰み探索をしませんと、相手が通常探索のうちわずかだけ詰み探索にエネルギーを割き、互角で終盤を迎えたときに、相手のほうが1手先に詰みを見つけてしまうために勝率ベースで見ると全然勝率が異なってくることがあります。

結局、どんなタイミングで詰み将棋ルーチンを呼び出し、どれくらい詰み探索に時間を配分するのかというバランスの問題になってきます。

この配分のためのパラメータを少し変えるだけで勝率がごろっと変わります。

前のバージョンに7割勝ち越すバージョンにさらに7割勝ち越すバージョンにさらに7割勝ち越すものが出来たのですが、一番最初のと最後のとを対戦させたら最後のがむしろ負け越していただとか。何をやっているのかまったく意味がわかりませんが、そういうことも起こりえる不思議な世界です。